ネオジム磁石の特長
■ネオジム磁石とは
ネオジム磁石は、現在、最も高い磁力を持つ永久磁石として知られています。「ネオジウム磁石」や「ネオジウムマグネット」とも呼ばれることもありますが、正式名称は「ネオジム磁石」です。
ネオジム磁石は、単位体積当たりの磁力が大きいため、小型化しても満足できる吸着力を得ることができます。このため、部品の小型化を目的とした需要に十分応えることができ、さまざまな産業分野で利用されています。
■ネオジム磁石の歴史
ネオジム磁石は、佐川眞人氏によって発明されました。
1972年富士通に入社し磁性材料の研究をはじめました。当時、最も強力な磁石であったサマリウム・コバルト磁石を超える強力で安価な磁石の開発が求められていました。
その後1982年に住友特殊金属(現:住友金属)に籍を移し、ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする新しい種類の磁石を発明、それが現在のネオジム磁石です。
その強力な磁力とコストパフォーマンスの良さから、急速に市場を拡大し、今日ではさまざまな製品に使用されています。
■ネオジム磁石の特長
ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分とし、現有する磁石の中で最も高い磁気特性を持つのがネオジム磁石です。
ネオジム磁石は希土類磁石の代表的磁石で、吸着力が他の磁石に比べて強いのが特徴です。
小型化しても満足できる吸着力を得ることができるので、ダウンサイジングを目的とした需要に十分応えることができます。
機械的強度に優れていますが、高温には不向きです。
また、錆びやすい特徴があるので、防錆のためメッキ加工を施します。
■ネオジム磁石と他の磁石の違い
ネオジム磁石はその強力な磁力とコストパフォーマンスの良さで知られています。これは、他の磁石、例えばフェライト磁石やアルニコ磁石などと比較してもその性能は際立っています。
フェライト磁石は安価で熱に強いという利点がありますが、ネオジム磁石と比較すると磁力が弱いです。また、アルニコ磁石は高温環境でも磁力を維持する能力がありますが、保磁力が弱く、価格も高いです。
また、機械的な強度に優れており、加工しやすい点も現実的なメリットとなります。
ネオジム磁石の欠点としては、高温に弱く、また錆びやすいという特性が挙げられます。しかし、これらの問題は、適切な表面処理や高保磁力グレードの開発により克服されています。
これらの特性により、ネオジム磁石は現在、最も強力な永久磁石として幅広い分野で活用されています。
こんなところにネオジム磁石
ネオジム磁石は小型で強力な磁力が得られるので、精密機械によく利用されます。
身近な工業製品として、たとえばハードディスクドライバーやスマートフォン、ヘッドフォンの部品として実装されています。
ハードディスクのドライバーでは、電気エネルギーを駆動機構に変換するための部品として使われています。
小さな磁石切片でも大きな磁力があるので、小スペースなのに強くて精緻な駆動力を要求される(ディスクのデータを読み書きする)ハードディスクにネオジム磁石は適正な素材といえます。
スマートフォンやヘッドフォンでは、電気エネルギーを空気振動(音)へ変換する部品として使われています。
いずれも小さな筐体スペースで精密な変換を要求される機械です。
とりわけカナル型ヘッドフォンでは、ネオジム磁石の性能で音質・音量に激しく差が出ます。
磁石のヒステリシスとは?
ところで、ネオジム磁石をはじめとする磁性体には、ヒステリシスという性質があります。磁性材料のヒステリシス(hysteresis)とは、磁場の変化に対する材料の磁化特性の遅れや残留を指す現象です。
ヒステリシスは、磁性材料が外部の磁場に対して反応し、磁化が変化する際の特性を表すグラフで示されます。ヒステリシス曲線は、磁場の強さ(縦軸)に対する材料の磁化(横軸)を表します。磁場が増加していくと、磁化も従って増加し、一定の点で飽和状態に達します。この飽和状態では、材料は最大の磁化を持ちます。
しかし、磁場を減少させていくと、磁化は直ちに減少するわけではありません。磁化はある閾値を下回るまで、一定の値を保ちます。この閾値を下回ると、磁化は急速に減少し、材料には残留磁化が残ります。
磁場を再び増加させると、閾値まで磁化は再び一定の値を保ちますが、飽和状態に戻るまでの磁場の増加量が、初めて磁場を増加させたときの増加量とは異なります。このような磁化特性の遅れや残留が、ヒステリシス現象として知られています。身近な例では、昔のカセットテープの雑音の発生原因が、このヒステリシス現象(ヒステリシスノイズ:ヒスノイズ)です。
ちなみに、この磁場と磁化の関係をグラフに表すと、直線ではなく、ひし形のような閉じたループ状の曲線となります。この曲線をヒステリシスカーブといいます。そして、このヒステリシスカーブの第2象限を取り出したものが「減磁曲線」です。
減磁曲線とは?
減磁曲線は、磁性材料が外部から磁場にさらされたときの磁化特性を示すグラフです。磁性材料は外部磁場の影響を受けて磁化されますが、その磁化の度合いは外部磁場の強さによって変化します。
減磁曲線は、磁性材料の磁化強度(磁気力の大きさ)を外部磁場の強さとの関係で表します。グラフでは、縦軸に磁化強度(磁力の大きさ)を、横軸に外部磁場の強さをとります。外部磁場が増加すると、磁化強度も増加しますが、ある限界値を超えると磁化が飽和状態になり、磁化強度の増加はほとんど見られなくなります。
減磁曲線は、磁性材料の磁化特性を理解するのに役立ちます。具体的には、磁気回路の設計や磁性材料の選定など、磁気を利用する技術の分野で重要な情報となります。
つまり、磁石の種類によってこの磁性曲線が変化するということになり、その磁石の特性(性能)を示す重要な情報となります。
■ネオジム磁石の減磁曲線は?
それでは、ネオジム磁石の実際の減磁曲線を見ていきましょう。
下西技研が用意可能なネオジム磁石のグレードは、5種類あります。最もグレードの低い「N35」から最もグレードの高い「N40H」です。ここでは、最も分かりやすい「N35」で見ていきます。
グラフを見ると、色違いの点線が複数あります。色の違いはこの減磁曲線を測定した時の温度を表しています。また、磁力の強さを表すパラメータはいろいろあるのですが、ここでは、X座標軸とY座標軸と減磁曲線で囲まれた部分の面積でみていきます。
濃い青色の曲線は室温が20℃の時です。囲まれた部分の面積が最も広いのが分かります。これに対して、オレンジの曲線は温度が100℃の時で、囲まれた部分の面積は小さくなっています。
そして、他のグレードで見てもこの傾向は変わりません。つまり、ネオジム磁石は同じグレードなら温度が高くなると磁力が下がるということになります。
ということは、高温の環境や磁石自体が加熱される環境では、本来の性能を発揮できないと言うことになります。逆に温度条件が厳しくない環境では、ネオジム磁石は十分にその性能を発揮できるということになります。
そして、身近なハイテク製品は温度条件がそれほど厳しくないことがほとんどです。このような製品の小型化はネオジム磁石の開発によってもたらされたと言えるでしょう。
温度差による減磁曲線比較
ネオジム磁石 N35
温度差による減磁曲線比較
ネオジム磁石 N35H
温度差による減磁曲線比較
ネオジム磁石 N35SH
温度差による減磁曲線比較
ネオジム磁気特性
素材 グレード |
残留磁束密度 (Br) |
保磁力 (Hcb) |
保磁力 (Hcj) |
最大エネルギー積 (BH)max |
温度係数 (αBr) |
耐熱工作温度 (Working Temp) |
キュリー温度 (Curie Temp) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
kG | mT | kOe | kA/m | kOe | kA/m | MGOe | kJ/m3 | %/℃ | ℃ (H/D =0.7) | ℃ | |
35 | 11.7 ~12.2 |
1170 ~1220 |
10.8 ~11.4 |
860 ~907 |
≧12 | ≧955 | 33 ~36 |
263 ~287 |
-0.12 | ≦80 | 310 |
42 | 13.0 ~13.6 |
1300 ~1360 |
11.7 ~13.1 |
931 ~1043 |
≧14 | ≧1114 | 40 ~44 |
318 ~350 |
-0.12 | ≦80 | 310 |
50 | 14.0 ~14.4 |
1400 ~1440 |
12.9 ~14.1 |
1026 ~1122 |
≧14 | ≧1114 | 47 ~51 |
374 ~406 |
-0.12 | ≦80 | 310 |
35H | 11.7 ~12.2 |
1170 ~1220 |
10.8 ~11.4 |
860 ~907 |
≧17 | ≧1353 | 33 ~36 |
263 ~287 |
-0.11 | ≦120 | 340 |
40H | 12.7 ~13.3 |
1270 ~1330 |
11.5 ~12.9 |
915 ~1027 |
≧17 | ≧1353 | 38 ~42 |
302 ~334 |
-0.11 | ≦120 | 34 |
当サイトで提示しております数値は、代表値であり、保証値ではありません。より詳細な数値をお知りになりたい場合は、 『磁気計算シミュレーション』をご利用ください。ご利用の環境に則した近似値をご確認いただけます。
ネオジム磁石は応用範囲の広い永久磁石です
以上、ネオジム磁石について簡単に見てきました。スマートフォンや、ハードディスクなどの身近な精密機械には、必ずと言っていいほどこのネオジム磁石が使われています。そしてこの「高い磁力」という特徴を活かして、これからも使われ続けて行くでしょう。今後の発展に期待しましょう。
下西技研では、ネオジム磁石の設計や製品の開発に豊富な実績があります。磁石のことでお悩みならば、お気軽にご相談ください。